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2009年09月18日

クローバーの見た夢 続き

「これ、ナニか分かる?」
目の前の女は、謎めいた笑みを浮かべると、私の目の前に何かを差し出した。
差し出されたモノは、銀色の十字架……。
少し変わったデザインのもので、見覚えのあるものではない。
目の前のものが十字架であることは分かる。だけど、恐らく彼女が望んでいる答えはそういう類のものではないはず。
私は、少し後ずさって首を横に振った。
「ふ〜ん、やっぱり分からない、か」
目の前のロザリオを引っ込めると、女は予想通りなのか思惑が外れたのか、よく分からない表情を浮かべて横を向く。
「幸運の四葉のクローバー。知ってるわよね?」
唐突な問いを投げかけられて、私は張り巡らしていた気を少し緩めて目をぱちくりさせた。
「いちお〜は……」
その答えは、彼女の気に入ったのか入らなかったのか。女は首を横に振りながら続けた。
「たくさんある三つ葉のクローバーの中に稀に現れる四葉のクローバー。
 それを持っていると幸せになれる」
その言葉を聞きながら、鈴音の中、記憶の奥底に眠る淡い思い出がよみがえってきた。
そういえば、私も、四葉のクローバーを幸運のクローバーと信じて大切に持っていた頃があったっけ……
あれは、どこにいったのだろう。
確か押し花にして、何かの本に挟んでいたはず。

その記憶と共に蘇る男の子の無邪気な笑顔。
「はい、これあげる」
そうだった……あのクローバーは、幼馴染の男の子から貰ったものだった。あの男の子……あれ、なんて名前だったっけ?どうしても思い出せない。確か、左手の甲にほくろが四つあって……まるでクローバーみたいねって話してたんだ。何歳の頃の記憶なのかも曖昧だ。本当に何も思い出せない。
「それと同じようなもの。」
女の声が鈴音を現実に引き戻した。
「え?なにが?」
 鈴音の言葉に、女の目だけがこちらに向いた。まるで獲物を射るように。
「聞いてなかったの?」
「あ、えっと……クローバー……だったよね?」
 鈴音が懸命に言葉をひねり出すと、機嫌が治ったのか、女の目線は鈴音から離れていった。
「クローバーと同じようなものだって言ったのよ。ま、一種のお守りの類ね」
「そういえば……」
聞いたことがある。確か、四葉のクローバーって、十字架に見立てられていて、だからお守りとして大切にされてるんだって。誰に聞いたんだっけ。
「それ……ただの十字架じゃない」
 無意識に自分の口をついて出た言葉に自分で驚いた。でも、目の前の女はもっと驚いたみたいで、はっとしたようにこっちを睨みつけた。
「思い出したの?」
「何を?」
「この十字架のこと」
「思い出したって……よく分からない。それ、私のものだったの?」
 本当にあの十字架を見たことは一度もないと思う。変わったデザインだもの。見たら、なんらかの形で印象には残ってるはず。少なくとも、見覚えはあるはず。
「あ、でも」
 鈴音は口元を手で抑えながら眉根をしかめた。もし幼い頃に見ていたのだとしたら、それは記憶にないかもしれない。幼馴染の男の子のことだって、殆ど覚えてないんだから。
「何か思い出したの?」
 目線を上げると、女の目が鈴音を真正面から捉えていた。周囲が暗くなってきていることに、女の目を見て気付いた。まるで暗闇に光る猫の目のようにぎらぎらしている。
「何も思い出してないけど」
「嘘を吐いても分かるのよ」
 脅されても、本当に何も思い出してないんだから怖くない。
「何か……思い出したら困ることでもあるの?」何気なく呟いた一言が図星だったらしく、女の目が更に鋭くなった。
「思い出してないならいいのよ。あなたには関係のないことだもの」
 女はそう言うと、鈴音に背を向けた。
「ちょっと待ってよ!」
 突然、分かるか?なんて質問されて、こっちは訳が分からないっていうのに、なんの説明もなく去ろうっていうの?恐怖ももちろん消えてはいなかったけど、恐怖より好奇心の方が勝った。ううん、好奇心というよりは、思い出。何か、こう頭の……違う、心のどこかに引っかかってることが、さっきからもやもやと霧がかかったみたいに鈴音の心を占領して、はっきりさせないと気持ちが悪い。はっきりさせないと、今夜は眠れそうにない。あの十字架とこのもやもやが関係するのかはわからない。だけど、確かに引き金はあの十字架で、あの女の言葉だったのだから、何か手がかりくらいにはなるはず。
「一体その十字架は何なのよ!?私に関係あるものなんでしょう?」
 鈴音の言葉が聞こえているのかいないのか、女はどんどん鈴音から離れていく。
「ちょっと!!何なのか教えなさいよ!!」
 女が角を曲がろうとした時、鈴音は慌てて女の後を追った。
「ちょっと待ってって言ってるで……しょう?」
 鈴音が角を曲がると、そこに女の姿はなかった。
「あれ?だって、今さっきここを曲がって……」
 狐につままれたっていうのはこういうことを言うんだ。鈴音はその場に座り込んでいた。見上げた空には月が登って鈴音を見下ろしていた。
「一体何なのよ……」
 誰に言うともなく、鈴音は呟くと、バッグから一冊の本を取り出した。そう、鈴音が会社を出る直前に、理沙が渡してきた本だ。なぜこの本を取り出したのかは鈴音自身、分からない。ただ、なんとなく無意識にその本を取り出していた。理沙は何て言ってたんだっけ?何か理由を言って……どうしても私に読んでもらいたいからって言ってて……。
 だめだ。どんなに思い出しても、理沙が何て言ってたのか思い出せない。理沙の手の感触だけははっきり思い出せるのに。そう。理沙の手は、ぞくっとするほど冷たかったから。
 本はカバーされていて、閉じた状態では題名すら見えない。中身を見ようと本を開けようとして、鈴音は初めて自分の手が震えていることに気付いた。
「たかが本くらいで、何を緊張してるんだろう?」平常心を取り戻す為に、低い声で言ってみたけど、その言葉も震えていた。
 震える手でなんとかタイトルがかかれているページを開くと、『天使と悪魔の生態』という文字が目に飛び込んできた。大きすぎず、小さすぎず。シンプルに書かれたその文字に、なぜだろう威圧感を感じる。
 おそるおそるページをめくる。
紙のすれる音が辺りに響いて、それが鈴音の恐怖を更に煽ってくれた。
「有り難迷惑だわ」なんてことない言葉でも敢えて口に出す。そうしていた方が、なんとなく怖さが軽減される気がして。
捲っていくと、目次がなく、すぐに本文に行き当たった。目次のない本というのも珍しい気がする。
 本文に目を走らせる。きっと目は血走っているだろう。さっきから瞬きをしてない気がする。目が乾き過ぎて痛みすら感じない。
『天使と悪魔。両者は互いに互いを軽蔑し、憎みあってすらいる者達も多くいる。だが、天使と悪魔にはそれぞれに『つがい』と呼ばれる相手が存在する。『つがい』とは、神が両者の全面的な争いを防ぐ為に創った防波堤のようなものだ。天使の『つがい』は悪魔で、悪魔の『つがい』は天使である。『つがい』同士は、互いを傷つけることは出来ない。なぜなら、相手を傷つければ自分も傷つくことになるからだ。『つがい』の悪魔と天使は二者合わせて一つなのだ。分かり易くいうと、人の中に聖と悪が存在する。その聖と悪、合わせて一人の人である。天使と悪魔はその聖と悪が分離した状態。そう考えれば理解し易いのではないだろうか』
 ここまで一気に読むと、鈴音は一度ゆっくり瞬きをして空を見上げた。なんだろう、この感じは。何か……懐かしい感じがする。もちろんこの本を呼んだ事は一度もない。なのに何か聞いたことのある文章で。既視感を感じる……。どこで……?こんな怖い感じじゃなくって、もっとこう、楽しくて……。
「ねぇねぇ、もっと聞かせて!!」
 胸を躍らせて話の続きをせがむ子供の声が頭に響いた。そう……。まるでおとぎ話を聞くようなそんな感じで……。何かを思い出しそうなのに思い出せない。読み進めれば何かを思い出すかもしれないし……。鈴音は再び本に目を走らせた。
『『つがい』だからと言って、互いに良い感情を持っているとは限らない。目の敵にすらしているものもいる。どんなに離れていても、自分の『つがい』が傷つけば自分も傷つくのだから。相手が死に瀕すれば自分も死に瀕する。『厄介もの』と言う事も出来るだろう。』
 確かに覚えのある知識だ。自分の中の辞書を捲っていけばその膨大な辞書の中のどこかのページの片隅にでも書かれているだろう知識。でもその知識がいつどこで誰から与えられたのかが分からない。
「天使と悪魔……そして『つがい』」
 一体、どうして理沙はこの本を鈴音に渡したのだろう?この話を鈴音は理沙から聞いたのだろうか?いや、それはないはずだ。だって、覚えてないけど、多分、小さい頃の記憶だから。理沙と会ったのは、理沙が今の会社に入ってきた時で。あれ?理沙……ちゃん……?かすかな不安が鈴音の心を過ぎる。会ってないわよね……?鈴音が必死に途切れた記憶を呼び戻そうとしていると、突然空が光った。
「何っ!?」
 数秒後に、ゴロゴロゴロ〜。雷鳴があたりに轟く。
「なんだ、雷か」跳ね上がった心を落ち着かせるように胸を何度もなでおろす。
「雨が降るのかしら?」それなら、早く帰らないと。あの女に追いかけられて、少し遠回りしてしまったから、急いで帰らないと帰り着く前に雨に会ってしまうかもしれない。
 鈴音は本をしまうと立ち上がった。
「雨の心配はない」立ち上がった鈴音の背後から低い声が響き渡る。
「な……?」なんだろう?金縛りにでもあったように体が動かない。振り向くことすら出来ない。なのに体が小刻みに震えているのが分かる。
「何を思い出した?」
「なんのこと?」
「さっき、女と話しただろう?そしてその後、食い入るように本を読んでいた。何かを思い出したんだろう?」
「あなた、さっきの女の知り合いなの?」
「お前は俺の質問に答えればいい。思い出したのか?」
「その女にも言ったけど、何も思い出してなんてないわ。第一、何を思い出すのかも分かってないのに」
「人間はすぐに嘘を吐く」
 背後でぞっとするような低い声が響いた。
「うっ嘘なんて吐いてない」
「どうかな」
「ほんと……っ!?」背後の何者かが、固まって動けずにいる鈴音の肩を掴んだと思ったら、抵抗も出来ないままに鈴音は百八十度回転させられていた。
「あなた……?」そこに見たのは、嫌な記憶の中に眠る男の目。そう、電車の中でずっと感じていた目線だった。
「あの電車で……」
「そうだ。お前を監視していた」
「監視……?」

===
なんとなく思い出したように続きを書きたくなって書いてみました。

う〜ん。女と男の人物描写が一切ない……いい気分(温泉)

暇つぶしに書いてみただけですモバQ
明日は乙女座の新月っ!!新月
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posted by こまつ at 20:28| Story | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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